違法労働
雇用者が労働基準法の規定を無視して、非倫理的な条件のもとで従業員を働かせること。異常な長時間労働、残業代の不払い、有給休暇を与えない、不当解雇などの事例が代表的。
違法労働こそブラック企業がブラックたる所以(ゆえん)
●きびしい修業も限度を超えればただの搾取
2010年10月、東京にあるアニメ制作会社に勤めていた28歳の男性が、退職後に自ら命を絶った。新宿労働基準監督署は「疲労による鬱(うつ)が原因」として労災を認定。男性が通院していた医療施設のカルテには「月600時間労働」の記載もあった。
月の労働時間が600時間!!
1カ月を30日として、1日20時間も働いていたことになる。しかも残業代が支払われた形跡もなかったという。仕事から解放されるのは、1日にわずか4時間。これでは休日どころか、睡眠時間すら確保できなかったはずだ。
アニメの世界は、専門学校を出て制作会社に入っても、現場は事実上の徒弟制度だといわれる。師匠に当たる先輩社員の仕事と技を「見て盗め」というわけだ。仮に残業代が支払われたとしても、月600時間労働は違法を通り越して異常と言わざるを得ない。日本では古来、徒弟制度で職人が育ってきた土壌があるせいか、「修業のため」と言われたら、新卒の若い子でさえ受け入れてしまうのだという。
もっとも徒弟制度そのものが悪いわけではなく、このアニメ制作会社がとくに劣悪な環境だったのだが、長時間に及ぶ勤務で仕事以外のことを考えない環境に置かれると、人は思考停止の状態に陥るといわれている。違法な条件下での労働を強いられているという被害者意識が薄らいでしまうのだ。
この事件で、労基署は労災を認定したものの、制作会社に対して何らかのアクションを起こしたという話は伝わって来ない。もしも「徒弟制度の世界だから」と黙認しているとしたら、第二第三の被害者がこれからも出るだろう。
日本人の勤勉な国民性ゆえに起こった悲劇ともいえるが、すぐに国民性を変えることは不可能だ。それでも自分で気づいて、会社に殺される前に逃げ出すことはできるはず。
●こんな条件の会社は違法労働を疑え
36協定の範囲であれば残業や休日出勤を命じることは合法なので、自分がしんどいからと言って違法だのブラックだのと騒ぐのはお門違い。
違法労働を疑うポイントを挙げておく。
・残業代があらかじめ基本給に組み込まれている
そもそも残業代とは、法で定める労働時間を超えたときに基準賃金の1.25倍を支払うことになっている。
残業代は「計算が可能であること」「最低賃金を下回らないこと」などの要件を満たしていれば基本給に組み込んでも違法とはいえないが、基本給と残業代の線引きをわざと曖昧にしているなら基本給の水増しを疑え。
・無知につけ込んで試用期間を悪用する
試用期間とは、採用時に知り得なかった適性や人格などを見極めて、もし会社に不適格と判断したら雇用を取り消せる期間と思われがちである。実際には試用期間であっても、採用した時点で雇用契約が成立しており、正社員として採用したら相応の待遇を与えなければならない。
ところが「試用期間だから」と理屈にもならない理由で、有期雇用契約や契約社員にされているケースが少なくないという。
尚、試用期間中の解雇については、「客観的に合理的な理由が存在すること」「社会通念上相当として是認され得る場合」にのみ許される。会社側が「コイツ、使えない」と思っても、決して問答無用で解雇できるわけではないことも憶えておこう。
・大量に採用して使い捨て
ブラック企業は、人材を育てる気など毛の先ほども持ち合わせていない。まともな企業が人材を厳選して慎重に採用するのに対して、ブラック企業は来る者は拒まない。過酷な条件のもとで働かせて、脱落しなかった者だけが会社の利益に貢献するという考え方だ。結果的に「戦力になる者」だけが残るので、人材を育てる手間もコストもかけなくて良い。しかも脱落した者は勝手に辞めて行くから良心は痛まないし、あとから不当解雇で非難される心配もない。人材を選別する方法としては違法性を問いにくいかもしれないが、少なくともスキルアップは望めない。もっとも忍耐力は身に着くかもしれないが――。
会社に入ってから違法労働をさせられていることに気づいても、また就職活動をやるのかと思うと、すぐには辞めづらいだろう。
だから自分と家族を守るためにも、前もってなるべくたくさんの情報を集めて、違法な条件で働かせていないか、ブラック企業ではないかを見極めることは、会社選びの重要なポイントである。
平藤清刀
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