過重労働と過労死

過重労働とは、労使間で定めた時間外労働の範囲を大幅に超える状態。月100時間または2~6カ月で月80時間を超えると、過重労働とみなされる。過重労働が原因の疾患による死亡または自殺を過労死という。

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日本人の勤勉さが裏目に出た究極の“使い潰し”

●働きすぎは心と体の両方を蝕(むしば)む

用語解説をもう少し掘り下げてみよう。月100時間を超える時間外労働が、いかに過酷なものかをお分かりいただけるはずだ。

定時退社が18時として、そこから23時まで仕事をしたら、5時間の残業をしたことになる。出勤日が月に22日なら、毎日5時間残業したら110時間。さらに土曜・日曜に出勤すれば、平日より早く退社するとしても、余裕で120時間は超えてしまうのだ。むしろ「100時間でおさまったらマシなほう」とさえ思えてくる。

また、2~6カ月の平均が80時間というのは「過去の2カ月間」「過去の3カ月間」「過去の4カ月間」「過去の5カ月間」「過去の6カ月間」のいずれかで時間外・休日労働時間が月80時間を超えるという意味である。これは労災の認定基準となる医学的な検討結果が根拠となっている。

管理職なら、そこへノルマや責任もかかってくるから精神的な負荷が大きい。多くの会社は管理職に残業手当は付けないし、スズメの涙ほどの管理職手当で報われる苦労ではないだろう。

「自分の仕事だから、最後まで責任を全うする」という浪花節では何も解決しない。そもそも会社には労働安全衛生法によって、安全配慮義務が課せられており、労働者の健康管理と快適な職場環境をつくらねばならない。平成12年にはこの義務違反で、会社側に1億6800万円の補償を命じた最高裁の判例もある。電通事件として記憶している人が多いのではないか。

ちなみに厚生労働省の見解では「適正な残業時間」は、月45時間までとされている。もちろん「規定の範囲だから良い」というわけではなくて、労働者が心身に変調を訴え始めたら、会社側は健康に配慮してしかるべき措置を講じなければならない。

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●会社に殺される真面目な労働者

1年のうち仕事が立て込んで残業が続く時期があるのは、ある程度はやむを得ない。社員の安全と健康に配慮してくれる会社なら、交代で休養を取らせる配慮もしてくれるだろう。

問題なのはそもそも36協定がない、会社と交渉する労働組合も社員代表もないブラック企業だ。もともと無理なノルマを課して長時間労働を強いる体質だけに、社員の健康に配慮する気なんか初めから無い。働けなくなったら自分から辞めるように追い込んで、あとのケアも一切しない。

過酷なノルマ、長時間労働、休日労働などは、会社から命令される場合のほかにも、「暗黙の強制」という無言の圧力によってそうせざるを得ない雰囲気がつくられる。

「そんなに苦しいなら残業なんか断ればいい」とか「会社を辞めればラクになる」とよく言われるが、そう単純な話ではないようだ。真面目に仕事に取り組む人ほど過重労働に陥りやすく、自覚がないまま働き続けて、脳溢血、心臓麻痺などで突然死するケースが後を絶たない。

過労は体の疾患だけにとどまらず、しばしば心をも蝕んで行く。うつ病を発症して、自殺した場合も過労死である。
かつて過労死は、働き盛りの壮年に多いと思われていた。この年代は管理職になり、部下を抱えて責任の重い立場にある人が多いだろう。ところが近年では、若年層の過労死が目立っているという。長時間労働や休日労働が当たり前という環境を考えると、ブラック企業で働き続けることは自分の寿命を縮めてしまう危険もはらんでいるといえる。

よく「会社に使い潰されると」いうが、命まで失う例があることを重く受け止めよう。会社に殺される前に、まずはそのような会社に入らなくて済むように、事前の情報収集とチェックは入念にやろう。

 

平藤清刀




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