労使関係の喪失
健全な労使関係のもとでは、労働者は労働を提供し、使用者はその対価を支払う。雇用契約は対等の関係で結ばれるが、ブラック企業の雇用契約は労働者が一方的に不利な立場に置かれるか、雇用契約そのものが無いに等しい。
入社した後で「しまった、ブラックだった!」と後悔しないために
●健全な労使関係とは
「就職」といえば、おそらく多くの人は「会社に入ること」をイメージする。大学生の就職活動でも、雇ってくれる会社を探すことに多くの時間が費やされる。すでに会社勤めを経験した人が転職先を探すときも、「どこかに雇っていただく」という意識が先行しがちだ。だから、やっとの思いで入った会社の待遇が少しぐらい理不尽なものだったとしても、「雇っていただいたのだから」と我慢をしていないだろうか。
雇用契約はあくまで労働者と経営者が対等の関係で締結され、お互いの信義に基づいて就業することとされている。もし労働者が契約の内容に不満があれば、もちろん訂正を求めることができる。そして経営者には、人材を育てて経営を維持・発展させる責任と、労働者の生活を守る義務がある。
労働者と経営者との関係で中核になるのは、労働組合との関係だ。労働者は労働を提供する対価として賃金を受け取る。その金額、労働時間、休日、福利厚生などの労働条件について経営者と交渉する際に、個人では力が弱いので、労働組合を組織して団体で交渉する権利、すなわち団体交渉権が憲法で保障されている。
これは労働者と経営者が敵対する関係ではない。会社の経営を発展させ、労働者の生活を守るために、互いに適度な緊張感を保ちながら協力し合う関係である。
もっとも多少の意見の相違は、どこの会社にもあるはず。求人広告に「労使関係は良好です」と書いてあったら、深刻な労使紛争は抱えていませんよという意味だ。
誤解してはいけないのは、労働組合が経営者の言いなりになって紛争すら起こらないというのは、決して良好な労使関係とはいえないということ。そんな会社は労働組合が機能していないから、社員は何らかの我慢を強いられているはずだ。
●ブラック企業の労使関係
・残業代を支払わない。
・長時間労働が当たり前。
・有給休暇を与えない。
・一方的に解雇を通告する。
などなど、これらのトラブルはブラック企業では珍しくない。
ではなぜ、ブラック企業にはこのようなトラブルが多いのか。それは経営者の力が強すぎるからである。
雇用契約が無いに等しいケースも珍しくない。雇用契約書は会社側に作成の義務があるとされるが、口約束でも契約の効力はある。効力はあるのだが、入社した後で「約束と違う!」という話になったとき「そんなもん知るか! 証拠を出せ」と言われたら、もう手も足も出せなくなってしまう。
そんな会社だと労働組合もつくらせず団体交渉もさせない、就業規則もろくに定めていないから、労使関係など初めから構築されていない。闘う術(すべ)を持っていない社員は、経営者に搾取されるだけである。
残業代なしで長時間の勤務を強いられる。そんな毎日が続いたら心身ともに疲弊してくるから、少し休みたいと思っても、「うちには有給休暇なんかないよ」と言われたら、おちおち休んでもいられない。
ブラック企業では基本的に人材を育てる気はなく、どんどん使いつぶして行く。無理をして体を壊したり心を病んだりして、退職に追い込まれるケースがたいへん多いのだ。もう戦力にならないのに自分から辞めない社員には、「明日から来なくていい」と一方的に解雇することもある。
社員を解雇する場合、労働基準法では原則として30日前に通告することになっている。しかし、労使関係が喪失している、あるいは初めから存在していないブラック企業では、このようなトラブルが後を絶たない。
人間らしい生活をしようと思ったら、入社した後でブラック企業だと気づく悲劇はなんとしても避けたい。そのためには、まず応募しようとする会社の情報をなるべく多く収集し、労使関係が健全に維持されているかどうかを冷静に見極めることが大事だ。
平藤清刀
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