追い出し部屋
希望退職に応じない社員を1カ所に集めて、本人のスキルとは無関係の雑用や他部署への応援など不本意な仕事をさせ、自己都合退職に追い込むために設置された部署の俗称。
追い出し部屋での仕事は「仕事をしないこと」
●辞めるか追い出し部屋で飼い殺しにされるか
大手電機メーカーに勤めるAさんは、勤続20年のベテランエンジニアだ。
ある日、出勤するとすぐ上司がやって来て、別室に呼ばれた。
「明日から人材強化センターへ異動だ」
背中に冷水を浴びせられたような衝撃とともに、Aさんは「俺の人生、終わった」と思ったという。
なぜなら「人材強化センター」というのは、いわゆる追い出し部屋。出勤から退社まで常に監視されていて、しかも仕事らしい仕事はない。
ただ1日じゅう部屋にいて時間が過ぎるのを待ち、定時ぴったりに会社を出る。何もやることが無く、無為に時間を過ごす毎日がどんなに虚しいか。
そんな境遇が待っていることが分かっているので、人材強化センターへ異動を命じられたら、次の日から出社せずに転職先を探す者がほとんどだという。
どうせ辞めさせるための部署なので、会社も無断欠勤を咎(とが)めない。むしろ「何日も無断欠勤して、転職先を探していた」という、辞めさせる口実に利用できるわけだ。
たとえ人材強化センターで粘っていても、元の部署には戻れない。給料は年々下げられるから、いずれ生活が立ち行かなくなる。まだ転職できる年齢のうちに、さっさと見切りをつけて次の職場を探す方が賢明なのだ。
「人材強化センター」という名称はほんの一例で、「自己研修室」とか「キャリアデザイン室」など会社によって呼び方は異なる。いずれにも共通しているのは、そこへ異動を命じられたら、二度と元の部署へ戻ることができないということだ。
●なぜ、ひとおもいに解雇しないのか?
追い出し部屋という陰湿な方法を使わなくても、辞めてほしい社員は解雇すれば早く片付くではないか?
そんな疑問が出てくるだろうが、会社にはそれをやり辛い事情がある。
「あなたを解雇します」という、指名解雇はそう簡単にはできないことになっている。就業規則に違反したとか、重大な法令違反を犯したなど正当な理由が必要なのだ。
「人が多すぎるから、高給取りのあなたに出て行ってほしい」という簡単なことでは済まない。有無を言わさず一方的に解雇する例もあるが、不当解雇で訴えられたら、会社には勝ち目がない。
だから会社が人員整理をしたいときは、まず「希望退職」を募る。「今、自発的に辞めたら、退職金を少し上乗せします」という条件も付ける。その際、辞めてほしい社員には、それとなく「君だよ」と悟らせるような空気を作ることもある。それでも希望退職に応じないと、いわゆる追い出し部屋へ片付けて、自分から辞めるように追い込んで行くのだ。
だが、ごく稀(まれ)に、追い出し部屋から復帰する人もいる。ある証券会社でディーラーを務めていたKさんは、バブル経済の崩壊と同時にディーリングルームが廃止され、希望退職に応じなかったため追い出し部屋へ異動させられた。
ところが折から電子取引が注目され始めたことが幸いして、会社はKさんの経験とディーラーとしての洞察力をもう一度活用するために、新設した電子取引の部署へ異動させたのである。
しかしこれは、本当に幸運に幸運が重なった稀な事例で、誰にでも起こることではない。
もし追い出し部屋への異動を命じられたら、法に訴えてでも会社と闘うか、もしくは自分を必要としない会社に見切りをつけて、長年培ったスキルを武器に新天地を求めるか、究極の選択を迫られることになる。
平藤清刀
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