のれん分け
江戸時代の商家で、丁稚(でっち)奉公から手代、そして番頭へと永年勤めた奉公人が、主家(しゅけ)から独立を認められて、同じ屋号を名乗って別家(べっけ)すること。現代でも従業員を独立させる制度として、言葉だけが残っている。
屋号、顧客、事業のノウハウを引き継ぐので、ゼロからのスタートよりリスクが少ない
現代の「のれん分け」制度とは
かつての奉公人は、多くの場合主家との間に血縁関係がなかった。だが番頭クラスになると家族も同然で、しかも永年にわたって主家に仕えており、その報奨として別家を持たせてもらうことができた。
同じ屋号を名乗ることを許され、永年の奉公で身に付けたノウハウはもちろん、顧客や信用まで受け継ぐことができた。これが江戸時代の「のれん分け」である。
したがって主家の事業規模を拡大する目的ではなく、奉公人を独立させる制度である。
現代の「のれん分け」も基本的には同じといえる。一般的には社員として採用した従業員が一定期間勤務し、店長やスーパーバイザーなどの管理業務を経験したうえで、「独立させても大丈夫だろう」というレベルに達したら、会社のサポートを受けて独立できるという制度だ。
「のれん分け」制度を取り入れている各社それぞれに細かい規定は異なるが、独立できるまで3~5年間は社員として働く必要があるという。だから「お金が貯まりしだい、すぐにでも独立したい」という人には不向きだ。
フランチャイズとどこが違う?
「のれん分け」制度を取り入れている企業でも、実態はフランチャイズである場合が少なくない。では、「のれん分け」とフランチャイズの違いとは何だろう。
「のれん分け」を一言でいうと「永年勤めた社員の労に報い、屋号の使用を認めて独立させること」となる。
独立させるのはあくまで社員であり、業務運営のノウハウと主家の顧客や信用を受け継ぐことができるほか、仕入れ先を自分で決めたり、主家が手掛けていなかった新しい分野の事業にも手を広げたりする自由が認められている。
経営に関する全てを自分の裁量で行える代わりに、完全に独立採算。
もし失敗すれば主家の信用にまで傷をつけかねないから、責任はきわめて重い。
一方フランチャイズは、店舗の経営を希望するオーナーを募集し、一定の加盟金を納めさせて、フランチャイズ本部が店舗を用意する。そして接客マニュアルや経営のノウハウ、扱う商品、器具類、制服、仕入れ先に至るまで、本部が定めたマニュアルに従わねばならない。
店舗のオーナーは本部から手厚いサポートを受けられる代わりに、売り上げの○○%とか月々一定額のロイヤリティを納める義務を負うほか、自分の裁量範囲が狭いことも辛抱しなければならないのである。
最も身近にあるフランチャイズ形態の商売は、なんといってもコンビニエンスストアだ。本部から頻繁に指導員がやって来て、親子ほど年の離れたオーナーにあれこれ指示を出しているところを見たことのある人は多いだろう。
従業員を独立させて店を持たせるか、あるいは第三者に店を持たせるかが大きな違いといえるが、江戸時代のような完全な独立採算となる「のれん分け」は、今ではほとんど見当たらない。
実際には「のれん分け」にフランチャイズのシステムを取り入れた「のれんチャイズ」といわれる形態が多いといわれる。
つまり建前上は「独立」を謳(うた)いながらも、同じ仕入れ先、同じレシピ、同じマニュアルで店舗を運営することになっているのが「のれんチャイズ」で、事実上フランチャイズと変わらないのが実情のようだ。
平藤清刀
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